ええと、自宅PCから久しぶりの更新。
久しぶりの藤崎隼人。実は先日のチャットで話題にしたネタでした。
藤崎が非常にダメな大人です。それでもよければお楽しみくださいまし。
つーかオフィスラブな藤崎隼人書いてください(他力本願ですか
では、どうぞ。
なすび
それはいつもの夕食時。
「今日のメニューは?」
「今日は……パスタと鶏肉のカチャトーラ。あとはガーリックトーストかな」
彼はいつもの私服にギャリソンエプロンを巻いた姿で、藤崎の問いにすらすらと答えた。
UGチルドレン、高崎隼人が滞在用のマンションに居候を決め込んで数ヶ月。始めの時こそ当番制を導入して、交代で家事を分担していたが、いつの間にか彼一人の担当になってしまっていた。
どうやら、以前から自立しようと考えていたらしい隼人にしては、ちょうどいい訓練だと思っていたのだろう。加えて、モルフェイス能力者である彼の潜在的な感覚で、単にものを作る作業が好きな性分なのかもしれない。
ちなみに、何度か申し出て隼人の作業を手伝うこともあるのだが、その度に『手際が悪い』と呆れられるという非常に不本意な結果になったため、最近は静観するようにしているのはここだけの話。
ともかく。
現在藤崎家の家事の一切を取り仕切っている隼人は、ずいぶん慣れた調子でキッチンの中を縦横無尽に歩き回っていた。
「何か手伝うことは……ないだろうな」
「ん?」
少し自信なさげに尋ねてみる。ちらっとこちらを見やると、どこか困ったように眉を下げた。
「特に手伝って欲しいことは……あ、そうだ」
広いシステムキッチンの一角、シンクに渡しっぱなしのまな板をちらりと見て、隼人は少し首をかしげてみせる。
「野菜、洗って切っておいてくんねぇかな」
「野菜、か」
「あっちのザルに上げてる、なすびとズッキーニ。カチャトーラ作るのに一緒に入れるからさ、そこまでやってくれたら俺も楽になる」
隼人が指を差した先には、確かにステンレス製のザルに盛られたなすびとズッキーニが出番を待っているようだった。
「判った。洗って、切っておけばいいのだな」
「ああ。ただの輪切りで。……一センチくらいの」
藤崎は一つ頷くと、ザルの中のなすびを手にした。
ワイシャツの袖を肘の上まで捲り上げ、ザルごと野菜をシンクまで運ぶ。その横では、隼人がたまねぎやセロリ、にんにくなどを持ち込んできていた。彼の作業をまじまじと眺めていると、さくさくと小気味いい音を立てて持ち込んだ材料を刻んでいく。
煮込み料理に刻んだ野菜を放り込むのか、と一つ納得して、自分の作業を始めることにした。蛇口を捻って冷たい水を流し、まずは瑞々しいなすびの方から綺麗に洗う。手のひらを使って全体的に包み込むようにして、余り力を込めずに埃などの汚れを擦り落とす。
ふと、何かの行為に似ているな、と思い立ち、どんな時だっただろうか記憶を探って……。
「……」
声にこそ出さなかったが、伸びかけた鼻の下を何とか引き締めた。
脳裏に甦ったのは、昨夜のこと。藤崎の腕の中、蕩けるように潤んだ瞳で、こちらを見上げてくる隼人の表情だった。
年相応のあどけなさと、十七、八の少年とは思えない危ういほどの艶を孕んで、与える刺激を全身で受け入れ、そして求める。舌足らずの甘い声音でもっととねだる様は、いつもの不機嫌そうで皮肉を入り交じったそれとは全く異なっていた。
背筋を甘く痺れさせるような彼の声が、藤崎の脳裏に甦る。
『――なぁ、そこ。……そこ、凄い、好き』
弱いところを強く抉っただけで、嬌声を上げて跳ねる肢体。
ここが好きかと囁くと、何度も頷いて名前を呼ぶ、濡れた唇。
『藤崎、っ……好き。大好き……』
緩く啄ばむように口付けると、もっと欲しいとでも言うように、ちらりと覗かせてこちらの唇を突付く赤い舌。強く弱く、リズムをつけて突き上げる動きに合わせて、別の生き物のように、妖しく揺らめかせる腰。
「……」
まずい。と、表情に出さずに藤崎は思った。このままでは、野菜を洗うどころの騒ぎではなくなる。というか、別のところのせいで、直立するのも難しい。一応、我慢はできるが。
仕方なく、思考を切り替える。夕べの隼人の媚態を堪能するのは惜しい気もするが、あんなにいい顔やいい声で鳴くさまは、いつだって拝めるのだ。
そういえばこのなすび、なかなか立派な大きさだということに気がついた。太さといい長さといい、焼きナスにでもすればさぞ酒の肴になりそうだ。
ああでも、このくらいだときっと……。
そこまでぐるぐる考えていると、不意に後頭部に軽い衝撃を食らった。
「あんた、何してるんだよ。ずーっとさっきから、なすびばっかり洗って」
振り返ると、呆れたような顔をぶら下げた隼人が、木杓子を片手に仁王立ちしていた。野菜を刻むのを終わらせたのか、目の端には涙がにじんでいる。どうやら、たまねぎが目に沁みたらしい。
そこで、改めて自分の状態をすばやく確かめる。流しっぱなしの流水に、なすびをずっと擦り続けていたのだ。軽くこすると、きゅぅ、と音まで鳴る始末。
「……ふむ。少し考え事をしていたようだ」
「考え事?」
「いや、このくらいのサイズなら、キミが十分満足していい声を聞かせてくれるか、とか」
正直に答えたつもりだった。正直すぎる感もあるが。
それに対し、隼人は一瞬ぽかんと口を開けたが、すぐに藤崎の台詞の意図に気がついたらしい。見る見るうちに頬に赤みが差し、ついには顔中が真っ赤になった。
ただし、藤崎が考えたのはそこまでで、それ以上の彼の対応については及びもつかなかったらしい。その一言で、隼人の怒りは瞬く間に臨界点にまで到達していた。
「……っ、何夕飯時に妄想を爆発してやがんだ、このダメな大人!!」
隼人の絶叫がキッチンに轟いた。丁寧に洗っていたはずのなすびを奪い取られ、ぐいぐいとドアの方まで追いやられる。
「まだ、手伝いは、終わっていないのだが」
「やかましい! そんなしょうもない妄想してる間あるなら、書斎で書類の整理でもしてろ!!」
どん、キッチンの外まで追い出され、荒々しくドアを閉められて、結局ろくな手伝いもできないまま、藤崎はひとりぽつねんと立ち尽くしていた。
そして夕食時。
どんとテーブルに置かれた料理を前に、一生懸命に『美味い』と感想を述べる藤崎と、ひたすら仏頂面でフォークで黙々と口にする隼人の姿があった。
[0回]
PR